現在、日本の普通預金金利は概ね0.001%。
100万円預けていても、1年間で10円の利息しかもらえません。
利息なんて雀の涙・・・もはや銀行預金は「信頼できる貯金箱」ぐらいの感じですよね。
銀行としてもこの預金の管理にコストがかかるため、双方ともあまり旨味がないシステムとも言えます。
でも、ちょっと待ってください。
今回ご紹介するイスラム金融。
実は利子が禁止されています。
イスラム金融システムを取り入れた銀行では預金しても利息はゼロなんですね。
今回は、なんとも不思議なこの「イスラム金融」についてのお話しです。
じゃあ逆にお金を借りる時も利息を払わなくてもいいの?
タテマエはね・・・まずはイスラム金融の概要について説明しよう。
目次
イスラム金融とは
利子の禁止
イスラム教徒にとって最大の啓典「クルアーン」。
クルアーンは「利子をとって金銭を貸すこと」を禁止しています。
この文言に基づいて定められたシャリーア(イスラム法)は利子の取得を禁止しました。
そもそもイスラム教は不労所得を禁止しており、利子も不労所得に該当する、ということですね。
特定の金融取引の禁止
イスラム銀行は、シャリーアを遵守します。
そのため、シャリーアに反する金融取引は一切認められていません。
例えば、イスラム教で禁じられている、豚肉、お酒、たばこ、武器、ポルノなどに関する取引です。
それだけではありません。
不確実な契約や投機的な行為も禁止されます。
投機的な行為はなんとなくわかると思いますが、不確実な契約とは、例えばいつ死ぬかわからないのに保険料をかける「生命保険」などもこれに該当するとされています。
なんとなく道徳的な感じはするけど、銀行は成り立つのかな?
僕たちが利用する金融システムそのままでは難しいね。だから独自の金融システムを作ったんだ。
独自の金融システム
イスラム金融が禁止しているものはなんとなくわかっていただけたかと思います。
でも、銀行が融資をするときに利息を取らないとしたら、銀行はどのように収益を得るのでしょうか。
また、預金者側も、利息が付かなければ、少なくとも銀行の預金規模に影響を与える感じがします。
これでは経済が活発になりませんよね・・・
ではイスラム銀行はどのように収益を上げているのでしょうか?
ムダーラバ(預金者への還元)
最初に述べたとおり、利息は禁止です。
ということは人々が銀行に預金しても、利息がつきません。
そうすると、銀行に預金するメリットはありませんよね。
そこで考え出されたのがムダーラバ。
ムダーラバとは、一言で言えば、資金の運用を信託するシステムです。
私たちのシステムでは、預金者が銀行にお金を預け入れます。
銀行はそのお金に対して決められた利息を支払います。
同時に銀行は預金を貸し付けて金利を得たり、運用してお金を増やしています。
これがイスラム法になると、まず銀行への預金ではなく「信託」に近い形になります。
「このお金を運用してください!」みたいな感じですね。
銀行は「わかりました!」といって預かります。
資金を得た銀行は、企業等の事業にその資金を投入します。
そして、その事業から利益が出れば、その企業から銀行が利益の配分を受け、さらに、銀行は資金提供者にお金を分配するのです。
「言葉が違うだけで利息と同じじゃない?」って思ったかもしれません。
預金との違いは、資金提供者は元本を保証されておらず、損をする可能性があるということです。
あくまで投資ですから・・・
こうすることで、預金利息と同じようなインセンティブを資金提供者に与えているのです。
ちなみに、イスラム銀行ではこのムダーラバの他に、無利息の預金口座は存在しています。
リスクを取りたくなく、タンス預金が嫌な方は無利息口座を利用する、という手もあります。
ムラーバハ(融資ができないので・・・)
言葉の響き的には同じですが、今回はムラーバハです。
すごくややこしいです・・・
例えば住宅ローンを考えてみましょう。
イスラム銀行は利息を受け取れないので、住宅ローンの融資をするメリットがありません。
では、住宅を買いたいのに自己資金がない場合はどうするのでしょうか?
ここで用いられるのがムラーバハ
例えば住宅を購入する場合、売主から銀行がいったん住宅を購入します。
金融機関は、金融機関の利益を上乗せして、そのまま買主に転売するのです。
買主は金融機関に売買代金を分割で支払います。
実質的な住宅ローンですね。
ムラーバハは、住宅だけでなく、自動車の購入にも使われますし、法人に対しても、機械などの設備資金の購入などで利用されています。
その他
一番わかりやすい、ムダーラバとムラーバハについてご紹介しましたが、このほかにも様々な手法があります。
保険がダメなので「タカフル」という独自の保険システムがあったり、国債や社債の利払いも受けられないので「スクーク」と呼ばれるイスラム債があります。
利子が制限されても、生活に不便がないように色々なスキームが用意されている一方、「実質同じじゃん!!」という見方もされています。
僕も実質同じじゃん!って思ったけど、教義に反しない、って自分で納得することが大事だもんね!
そのとおり!利用者が納得して使えるものが一番いいのだと思う!
イスラム金融の利用と課題
イスラム金融は、私たちにとっては非常に難しいシステムです。
では、このイスラム銀行はどのように利用されているのでしょうか?
どのような課題があるのでしょうか?
利用者に制限はない
当然のことですが、主にアラブ諸国でイスラム金融は利用されています。その他、インドネシアやパキスタンなどイスラム教の国でも多いです。
イスラム金融とは言うものの、イスラム教徒がイスラム金融の利用を強制されている、ということはありません。
逆に、イスラム教徒しか使えないかというとそういうわけでもありません。
意外と門戸は開かれているんですね。
イスラム金融の課題
解釈がバラバラ
一口にイスラム教徒といっても、様々な宗派があります。
イスラム金融はシャリーアに適合していることが前提となりますが、
宗派によってそれぞれシャリーアの解釈が異なります。
また、個人レベルでもシャリーアの解釈が異なるため、統一した適合性の判断が難しく、その為利用に抵抗がある、と言われています。
シャリーア専門家不足
イスラム金融にはイスラム法への適合性を判断するシャリーア委員会を設置しなければなりません。
しかし、シャリーア委員になるにはイスラム法学者でなければならないのでが、全世界で100人程度しかいないとされています。
そのため、複数の金融機関のシャリーア委員会を兼任することも珍しくなく、そこそこ激務らしいです・・・
確かに解釈にばらつきがあると、少し頼りにくいよね・・・
予想つかないと行動を決められないからね・・・
最後に
いかがでしたか?
日本ではイスラム教はあまりなじみがないかもしれませんが、世界には約17億人のイスラム教徒がいるとされています。
このイスラム金融がより改善され、イスラム教徒が利用しだすと、決して小さくない影響力を持つことになります。
もしかしたら皆さんの会社もイスラム系の企業と取引する可能性があるかもしれません。
いろいろな文化や思想を理解する心は持っておきたいものですね!
参考書籍:図解宗教史(成美堂出版)